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□    116.DNA
 それから、遺伝子っていうとすごく科学的で整理されたもののように思えるが、日常的に使われるときはたいてい、物理的なものではなく、曖昧な無形物であることが多い。そもそも針のあけた穴を見るのでようやっとな人間が、その何十、何百倍も小さなものを見ることは、本当にできているのだろうか。誰かがレンズの裏に、そうやってうつるようにしているだけかもしれない。第一人間をそこまでバラバラにして、見えた物が真実であるという保証もないのに、「科学」はいかにも幽霊より偉そうな顔をしている。
 さて、生まれてくるからには必ず持たねばならない螺旋階段は、母と父とその先祖をバラバラにして引っ付けたような形をしているらしい。人間コラージュだ。父親がサイコパスの凶悪犯だから、その息子はサイコパスの凶悪犯のひとかけらを持っている。原因は、彼によく似た湿気に弱いちぢれ毛かもしれないし、やたら伸びるのが早いちぢれ毛かもしれないし(脇毛の話だ)、伸びたらちぢれるだろうまつげの一本かもしれない。それをすべて分解して証明するには、あまりに人間は細か過ぎて、また、あまりに柔軟すぎた。そこで、人間は、無形のディ・エヌ・エィに原因を押し付けたのだ。人は彼を犯罪者の子どもだと揶揄したし、彼をビッチの息子だと罵った。彼はちぢれ毛をふわふわさせながら、肩をすくめ、母の癖のとおりに逆手で傘を取り出して、父のように太くて短い親指で「ひらく」のボタンを押した。その日は晴れだったし、彼の持っていたのは雨傘だった。いつか彼は父親のようにサイコパスを表面化させて連続殺人をするだろうと桜井ベティは言っていた。彼が隣に越してきたのは、死神の仕業だった。また高校のクラスメートの田中鈴木と中井遼太郎は彼はいつかクラスの女の子全員の処女を奪うだろうと賭けをしていた。二人とも肯定派だったので、賭は破綻した。果たして、女子の半分は、処女を喪失していたが、相手は彼女たちの恋人か、大通りを通りがかる裕福なおじさんだった。
 彼は必ず雨傘を手放さなかった。老人が杖をつくように傘をついて歩いた。雨の日は傘を二本持ち歩いた。あれで人を殴り倒している場面は未だに目撃されてなかったが、予言のようにあの傘は危ないと噂された。彼と同じメーカーの傘を持ち歩くのはいけないことだった。その傘は、病気で死んだ彼の母がいつも持ち歩いていたものだった。彼女の病気が癌だったか性病だったか、事実はどうあれ、隣人たちは口々に避妊は大事だと言い合った。誰かが彼の傘を取ろうと提案したこともあったが、すると彼はサイコパスで凶悪犯な顔を見せるだろうから、周囲は躍起になってそれを止めた。
 それから、

2015.06.12

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